
オーストリアGPという現実──角田裕毅、沈黙の16位
2025年6月30日、レッドブルのホームグランプリであるオーストリアGP。角田裕毅は予選18番手、決勝16位という厳しい結果に終わった。決勝中のピット戦略は1ストップで、タイヤはC4からC3への切り替え。序盤はDRS圏内に入っていたものの、中盤からグリップ低下とラップタイムの急落が続き、後続に次々と抜かれていく展開となった。
角田はレース後のインタビューで、「何が間違っていたのかすら分からない」と語った。これは単なる敗北の言葉ではなく、自分のドライビングへの疑問、マシンとの不一致、そして“正体不明の迷路”を走り続ける者の苦悩だった。
“正直、何が悪いのか分からない。これだけ遅い理由が分からないんです。”
マシンからのフィードバックは薄く、チームの戦略的支援も目立たなかった。週末全体を通じて、角田は「一人で壁にぶつかっている」ように見えた。

タイヤか、マシンか、それとも設計思想か──RB21の落とし穴
角田が語ったもう一つの重要なポイント、それは“タイヤが溶けるように削れていく”という感覚だ。
“1周目は良かった。でもラップを重ねるごとにグリップがなくなる。1コーナーごとにバランスが崩れていく。”
これは単なるセットアップミスではない。RB21のエアロダイナミクスが、特定の空力バランス下でしか機能しない“極端なゾーン型マシン”であることを示している。つまり、タイヤの熱入れ・温度維持・縦横グリップバランスのどれかがズレるだけで、走行性能が崩壊してしまう。
ヘルムート・マルコもこう語っている:
“RB21は綱渡りのようなマシン。少し条件が変わるとバランスを失ってしまう。”
RB21はあまりにも“狭い正解”を要求しすぎている。これは、どれだけ才能があってもドライバー一人では打開できない問題である。
チーム内評価の分裂──ホーナーとマルコの言葉の温度差
クリスチャン・ホーナーはオーストリアGP後、角田に対し厳しいトーンで評価した。
“ユーキはひどかった。予選もダメだったし、ペナルティまで。全てが悪い方向に行った。”
このコメントは結果だけを見た冷たい評価だが、一方でヘルムート・マルコはより構造的な問題を認めた上で、「今ドライバーを変えても意味がない」と語っている。
こうした“首脳陣の視点の違い”こそ、チーム内で角田が直面する困難の一端を象徴している。
レッドブル帝国の構造に飲み込まれる“セカンド”たち
ガスリー、アルボン、ペレス──いずれもレッドブル昇格後にマシンに適応できず、降格や離脱を余儀なくされた。
これは単なる“実力差”ではない。チームが開発・戦略をフェルスタッペン基準に最適化していることが、もう一人のドライバーにとって“毒”になっている可能性がある。
セカンドドライバーに求められるのは、スピード以上に“適応力と犠牲”なのかもしれない。

サマーブレイク前の命運──移籍の可能性を探る
2025年F1カレンダーでは、7月27日のスパ・フランコルシャンを最後にサマーブレイクへ突入する。この2戦(+ハンガリーGP)が角田の運命を分けるタイミングとなる。
✅ 基本的に2026年体制が固まっているチーム(※100%確定ではなく報道・契約に基づく)
- マクラーレン:ノリス&ピアストリ(複数年契約)
- フェラーリ:ルクレール&ハミルトン(2026年までの複数年契約で継続見込み)
- アストンマーチン:アロンソ(契約中)、ストロール(チームオーナーの息子)
- ハース:オコン&ベアマンは2026年末までの複数年契約。体制継続の可能性が非常に高く、角田の移籍余地は少ない
🔍 契約・体制が未確定または調整中のチーム(移籍の可能性あり)
- レッドブル:フェルスタッペンは2028年まで契約中だが、契約には特定条件での離脱条項も含まれており、セカンドシートは角田が昇格中ながら2026年以降は未確定(news.com.au)
- メルセデス:ラッセルは2025年末で契約終了予定で延長交渉中。アントネッリも2026年以降は未発表(formula1.com)
- ザウバー(Audi):ヒュルケンベルグは2026年まで契約済。ボルトレートは将来のレギュラー起用候補(reuters.com)
- RB(レーシングブルズ):角田は2025年末までの契約延長が正式発表済。現在はレッドブルで起用中だが、RBとの契約期間中での“昇格扱い”であり、2026年以降の再契約は未定。
- アルピーヌ:ガスリーは契約延長交渉中。フランコ・コラピントは2025年に複数戦出走済であり、2026年の正ドライバー昇格が有力視されている(motorsport.com)
- キャデラック(アンドレッティ):FIA承認済、2026年参入に向け人選進行中(公式)


いま、角田裕毅が見せているもの
RB21という難解なマシン、チーム内での力学、契約交渉が交錯するなかで、角田は弱音を吐くことなく「前を向く」姿勢を続けている。
“何が悪いのか分からない。でも調べて、修正して、また走るしかない。”
自らを責めるだけでなく、「原因を突き止めて前進しようとする」その姿勢は、F1において極めて尊い。レッドブルの枠に残るか、他チームで再出発するか──いずれの未来にせよ、その誠実さと粘りは、いずれ花開く可能性を秘めている。
残酷な成績の裏で光る“本質”
F1は結果がすべての世界でありながら、その裏にあるストーリーこそがファンの心を動かす。
角田裕毅はいま、“数字では測れない戦い”を続けている。
成績に現れない努力がある。
それを知っている人たちは、決して彼を見捨てないだろう。