
SNSを駆け巡る報道とファンの一喜一憂
F1ファンの間ではよく知られているが、東スポ(東京スポーツ)は“刺激的な見出し”や“独自情報”で知られるタブロイド紙だ。今回の報道も、元はBBCの内容を東スポが独自解釈・翻訳したものとされ、そこにさらに“断定的ニュアンス”が加わったことで拡散が加速した。
角田裕毅が今季序盤まで所属していたレッドブル傘下のレーシング・ブルズから昇格し、現在はレッドブル・レーシングで戦っている中──そんな記事が再びSNSを駆け巡った。今回の出どころはBBCとされ、それを引用した東スポ系の報道が国内に拡散。「事実上の退団」「放出濃厚」といったワードに、X(旧Twitter)でもファンが一喜一憂している。

だが、冷静に見ておきたいのは“文脈”だ。
記事の核心──仮定を既定路線のように扱う危うさ
報道の根幹にあるのは、「今のままの成績であれば」という前提つきの話だ。つまり、それが仮定の域を出ていないにもかかわらず、記事では“既定路線”のように装われている。実際には、角田裕毅の去就に関する正式な発表は一切ない。もちろん、レッドブル陣営からの明言も、ホンダからのコメントも出ていない。
成績不振は事実──だがそれだけで決まる話ではない
確かに、F1の世界で結果がすべてであるのは間違いない。今季の角田は開幕から好調を見せていたが、直近の数戦では戦略やタイヤ判断の綻び、マシンアップデートの影響を受けてポイント獲得から遠ざかっている。
しかし、それをもって「放出確定」と断じるのはあまりにも早計だ。

ホンダという後ろ盾──角田の存在意義は“政治”にもある
重要なのは、今も角田が**“ホンダPUを背負う唯一の日本人ドライバー”であることだ。開幕当初所属していたレーシング・ブルズ(レッドブル傘下チーム)はホンダのPUを搭載する実質的な“準ワークス”状態であり、ホンダとの関係性を維持する意味でも角田の存在は政治的・技術的な橋渡しとなっている。特に2026年以降、ホンダがアストンマーチンと組むことを考えると、角田の存在は戦略的にすら重要だ。
言い換えれば、「このまま」では確かに危うい。だが、「このままでない」可能性がまだ十分に残されているということだ。
真の勝負はこれから──後半戦こそが鍵を握る
むしろ、ここからの後半戦──特にヨーロッパラウンド終盤からアジア・中東にかけてのパフォーマンスこそが、角田の未来を決めるカギとなる。
仮に将来的にレッドブル・レーシングから離れることになったとしても、それが即F1離脱を意味するわけではない。既にファンや一部専門筋の間では、2026年以降のホンダPU×アストンマーチンの文脈で、角田の“移籍”がささやかれている。
アストンマーチンとホンダ──“新章”の可能性へ
前回F1 DIVEでも紹介したように、アストンマーチンはエイドリアン・ニューウェイの加入などにより、体制強化が進むチームだ。そしてホンダは、そのアストンと共に再びF1タイトルを目指す。その文脈に、角田の名前が載るのはごく自然な流れだろう。

結論──報道に踊らされず、“今”に注目せよ
報道に一喜一憂するのはF1ファンの醍醐味の一つだ。だが、その報道が“公式発表”ではないことを忘れてはならない。むしろ今は、角田裕毅が「このまま」では終わらないことを信じ、彼の戦いに注目すべきタイミングだ。
──角田裕毅のF1人生は、まだ終わっていない。
そして、その先には“新たな章”の扉が待っているかもしれない。